ひとことで腎臓病といっても、急性か慢性かという違いだけでなく、症状や原因が異なる様々な種類の疾患があります。病気のタイプが違えば治療法も異なります。ここで病気の種類別にその原因や症状についてまとめておきたいと思います。
腎臓病の種類を大きく分けると原発性と続発性に分かれ、さらに急性の腎疾患と慢性の腎疾患とに分かれます。原発性の腎臓病とは腎臓の糸球体や腎盂など腎臓そのものにトラブルが生じて起きる病気のこと。続発性の腎臓病とは高血圧や糖尿病などほかの病気が原因で起こる病気のことを指します。
原発性腎疾患の代表的なものとして挙げられるのは、糸球体腎炎などの急性または慢性の腎炎、IgA腎症やネフローゼ症候群など。急性のものと慢性のものでは治療法や治療の期間などが異なります。
また続発性腎疾患には、最近特に増えているという糖尿病性腎症や痛風腎、多発性のう胞腎などが挙げられます。
生活習慣病の糖尿病との合併症である糖尿病性腎症は、重症化する患者さんが多いことで知られています。日本透析医学会の調査によれば、透析導入患者のうちなんと43.7%、16,072もの人が糖尿病性腎症であることがわかりました(2015年12月時点)。
そこで厚生労働省は「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定し、行政と医療機関、そして各自治体が連携して人工透析患者を減らすことを目的とした啓蒙活動もおこなわれているそうです。
このカテゴリでは代表的な腎疾患に絞込み、それぞれの病気の原因、主な症状や特徴、対処法などついて説明していきたいと思います。ご自身の症状と照らし合わせて少しでも懸念材料が見つかったら、比較的大きな総合病院で検査することをおすすめします。
【腎臓病の種類一覧】
腎臓のろ過装置である糸球体に炎症が起こり、血尿やたんぱく尿がでる病気の総称です。糸球体腎炎には溶連菌感染症などが原因の急性糸球体腎炎と1年以上たんぱく尿や血尿が出る慢性糸球体腎炎があります。
急性糸球体腎炎の原因は溶結性連鎖球菌への感染が多く、特に小児に多い病気です。症状は、血尿やむくみなどが一般的。
また、まれに細菌やウイルスが尿道から侵入して腎臓にまで達して炎症を起こすケースは、「腎盂腎炎」呼ばれ、腰痛や発熱、膀胱炎の症状などが現れます。
一方、慢性糸球体腎炎は、IgA腎症のほか、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎など様々な疾患で知られていますが、その他の9割は原因不明とされています。症状は、蛋白尿や高血圧などがありますが、進行するまで自覚症状に至らず、気付いた時には透析が必要なほど進行している場合も。
急性の場合は、長期間の入院と安静治療、場合によって透析などの適切な治療を行うことで、1年~1年半で治癒することがほとんどです。
慢性の場合は完治が難しいので、食事療法、薬物療法などを行いながら、腎機能が低下しないように保存治療が行われます。
糸球体腎炎の食事療法は以下の通りです。[1]
たんぱく質:標準体重1kg当たり0.5~1.0g
エネルギー:標準体重1kg当たり35kcal
食塩:むくみや血圧の症状に合わせて制限
水分:尿の量が減ってきた場合は制限
腎不全は特定の腎疾患名ではなく腎機能が著しく低下している状態の総称ですが、腎不全にも明らかな原因による急性腎不全と、生活習慣病の影響など長年の蓄積による腎機能の低下総称する慢性腎不全があります。
急性腎不全の原因は、大腸菌O-157などの細菌感染や抗生物質などによるアレルギー反応、血管造影検査に使用される薬剤など様々。糖尿病や高血圧などの既往症がある高齢者の方も発症しやすいとされています。
一般的な症状は、突然、尿の出が悪くなったり、全くでなくなったりなどで、尿蛋白の数値上昇や高血圧症状などもあります。
一方、慢性腎不全の原因は、慢性糸球体腎炎やネフローゼ症候群、間質性腎炎などの進行によるものや、糖尿病性腎症から発症するものなどが知られていますが、劇的な原因や症状が少ない場合も多く、知らぬ間に腎機能が低下していることも。一般的には腎臓機能が3分の1に低下している場合に慢性腎不全の診断が下されます。
急性の場合の治療は、腎機能を急激に低下させた原因を取り除くことが主となります。そして体の機能を維持するために、一時的ですが透析治療を行うこともあります。
慢性では食事療法と薬物療法を継続して行いますが、腎機能が正常の3分の1にまで低下すると人工透析治療が始まります。
腎不全の食事療法は以下の通りです。[1]
腎不全の場合は全身浮腫や高血圧といった症状があるため、食塩やたんぱく質が厳しく制限されています。
タンパク質:標準体重1kg当たり0.6~0.7g
エネルギー:標準体重1kb当たり35kcal
食塩:1日7g以下
水分: 浮腫および尿量により制限
カリウム・リン:血液中に増えた場合のみ
ネフローゼ症候群もひとつの疾患名ではなく、たんぱく尿が大量に排泄されてしまうことが原因でむくみや体重増加が起こる疾患です。腎機能の低下だけでなく、糖尿病やがん、膠原病、薬剤による副作用も原因となります。
ネフローゼ症候群の初期症状は、倦怠感や疲労感、食欲不振など一般的な体調不良の症状とよく似ており、病状が進行するとともに尿や血液中のタンパク値の異常、むくみなどの症状が見られるようになります。
通常0.5g以上で再検査が必要だとされる尿蛋白の量が1日に3.5g以上に上昇、血中のアルブミンというタンパク質(正常値4.0g/dl)は、3.0g/dl以下に低下して、腎臓機能の異常を知らせます。
血中のアルブミンが低下するとむくみ症状が出ますが、尿や血液検査の異常と、この、むくみ症状が同時に出ている場合はネフローゼ症候群とされることが多いようです。
ネフローゼ症候群の場合、原因となる病気により治療法が違ってきます。薬物療法が主に行われますが、難治性ネフローゼ症候群の場合はむくみや合併症が出ないよう、対症療法に切り替えられることがあります。
むくみがひどく出たときだけ利尿剤を服用するなどの対処も必要です。
ネフローゼ症候群の食事療法は以下の通りです。[1]
タンパク質:標準体重1kg当たり0.8~1.1g
エネルギー:標準体重1kg当たり35kcal
食塩:通常1日5~6g、むくみが見られるときは1日0~4g
水分制限:通常は行わない。高度なむくみがあるときのみ
糖尿病性腎症は糖尿病と腎臓病の合併症で、新たに人工透析による治療を始める人の原因疾患でいちばん多い病気です。厚労省も透析患者を減らすプロジェクトを立ち上げているほど重い腎臓病です。
糖尿病の罹患歴が長く、血糖値の高い状態が10年以上も続いている場合は、血管に大きな負担がかかっており、その影響から腎臓機能が低下することがあります。
尿タンパクが出始め、むくみ症状が続いて「ネフローゼ症候群」の症状が出るケースや、「慢性腎不全」へと進行するケースも。糖尿病が原因で尿たんぱくが出ると、ほぼ数年で透析治療へと移行する場合が多く、進行が早いのが特徴です。
初期症状では、尿検査の際に微量のアルブミンが検出されることがありますが、この初期症状を見逃さずに治療を始めることができれば、深刻な腎症をくい止めることができると言われています。
治療は糖尿病と腎疾患の両方を同時に行っていきます。治療の基本は食事療法ですが、糖尿病の食事療法と腎疾患の食事療法は矛盾する点があるので、医師や栄養士の指導を基本とする必要があります。
全国腎臓病協議会によると、厳格な血糖コントロール低カロリー食を行うのは第2期(早期腎症)および第3期(顕性腎症期)です。第4期になると腎不全期にあるので、低たんぱく食への切り替えと透析治療も行われるようになります。[2]
タンパク質:第2期:1.0~1.2g
第3期:0.8~1.0g
第4期:0.6~0.8g
カロリー:第1~3期:標準体重1kg当たり25~30kcal
第4期:標準体重1kg当たり30~35kcal
食塩:第3期:7~8g
第4期:5~7g
カリウム:第3期:経度制限
第4期:1.5g
IgA腎症は慢性糸球体腎炎の一種で、日本人がいちばん多く罹患する腎臓病です。腸などの粘膜を守る免疫であるIgA(免疫グロブリンA)というたんぱくが糸球体に沈着することで起きる病気です。
血液中の老廃物をろ過する糸球体に余計なタンパクがくっついてしまうと詰まりを起こし腎機能が低下します。症状は慢性糸球体腎炎の中でも軽いものとされていますが、発症から20年後には約3割以上の患者が腎不全となっていたという研究結果も。
原因については実はよくわかっておらず、体内に侵入した異物に対抗するために作られる抗体が腎臓にくっついて腎炎を引き起こしていることから、細菌やウイルス感染が原因となっている可能性が高いというのが有力な説。
何らかの異物が喉や腸などに入り、これに対抗するために免疫複合体のIgAが過剰に作り出されるというところまでは分かっていますが、原因である抗原の確定ができていないのが現状です。
治療では食事療法に運動制限、薬物治療をしていくことになります。症状が軽い場合は抗血小板薬の投与を行い、重症の場合は副腎皮質ステロイドホルモン剤が使用されます。
IgA腎症の食事療法については慢性糸球体腎炎の内容になります。ただし、IgA腎症患者の約30~40%が発症から20年後に腎不全となっているので、ステージ別に食事療法をしていくことが大切です。
腎臓結石は別名尿路結石、30代から50代の男性に多く見られる疾患。腎臓から尿管、膀胱などの尿の通り道に尿の成分が固まって結石ができてしまい、その石が尿管をふさいでしまうと激痛が走ります。
主な症状は血尿や嘔吐で、わき腹や背中に刺すような痛みを感じることが多く、小さな結石の場合は尿管を下り下腹部や太物の付け根あたりまで移動しますので、痛みも移動することで知られています。
逆に結石が大きいと尿管の途中で止まるので痛みも同位置で続くことになります。
腎臓結石の6割は原因不明とされており、遺伝的な要素や何らかの病気によって尿の流れが阻害されて起こることもありますが、特に原因がわからないケースが多いと言われています。
他に、血液中のカルシウム濃度をコントロールするホルモンが異常をきたす原発性副甲状腺機能亢進症の発症が原因となる場合も。
結石は成分がカルシウム結石であればレントゲンに白く写るので簡単に診断できます。シスチンや尿酸結石の場合はレントゲンに映らないことが多いので、超音波エコーなどで診断します。
結石は尿と一緒に外へ出すようにします。もし結石が大きいようであれば、衝撃波を当てて小さく砕くことにより排出できるようにします。また、シスチンや尿酸結石の場合は薬剤で溶かして治療する方法もあります。
結石は日常的に動物性たんぱく質を多く摂る人がかかりやすい病気だとされています。牛肉やレバーなどのプリン体を多く含む食品は控えるようにして、水分をなるべく多くとるようにしましょう。
遺伝性の腎疾患でいちばん多いのがこの多発性のう胞腎です。
腎臓にのう胞という液体がたまった袋がたくさんできて腎臓を圧迫します。遺伝率が50%ともいわれている病気です。若い時には発症しにくいケースが多く、30~40歳代までは無症状である場合が少なくないようです。
初期の症状は運動後の血尿・腹痛・腰の痛み等が一般的で、病状が進行してのう胞が多くできると、腎臓肥大によるお腹の張り・食欲低下・疲労感・夜間尿・息切れ等の症状が見られるようになります。
のう胞の感染・尿路結石・のう胞出血による急な痛みや、腎臓肥大によって腎臓を覆う膜がのばされる慢性の痛みなどを感じたら、かなり進行した状態だと言えます。
また、合併症として高血圧も引き起こすことで知られており、脳出血も通常より高い頻度で起こるので脳動脈瘤などを引き起こす可能性も高くなり注意が必要です。高血圧から多発性のう胞腎が発見されるケースも。
高血圧の他にものう胞感染で高熱や腹痛を繰り返し起こす可能性もあります。血尿を伴う尿路結石、脳動脈瘤やくも膜下出血も多発性のう胞腎の合併症です。
治療は高血圧があれば血圧コントロールを行い、腎機能障害があれば機能低下を防ぐために保存的治療を行っていきます。合併症によってはのう胞の排液を行うこともあります。
根本的治療法は現在ありませんが、症状を緩和したりのう胞を抑えるための薬剤の臨床試験が行われています。
腎臓で作られるホルモンのひとつである「エリスロポエチン」の分泌量が腎機能の低下により減少し、赤血球が十分に作り出されなくなることが原因で起こる貧血。
疲れやすく、動悸や息切れ、めまいなどの症状が出ます。腎性貧血はゆっくりと進行するため、体がこの症状に慣れてしまい、腎臓の異変に気付かないケースが多いです。
酸素不足をカバーしようとする心臓に大きな負担をかけてしまいますので循環器の疾患などがある方は注意が必要。特に狭心症や不整脈の傾向が見られる方は、腎臓の治療と共に心機能の経過観察も不可欠。
また、一般的に多く聞かれる鉄分不足の貧血と症状が似ていますが、原因も治療法も異なります。鉄分を補給しても貧血症状が治まらない場合は腎性貧血など他の可能性を疑ってみると良いでしょう。
腎性貧血の治療には赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を使用します。また、食事では鉄分を補ったり鉄材を内服するなど、ヘモグロビンを増やすよう指導されます。
ただし、心疾患のある方は、鉄剤によって心筋梗塞や狭心症のリスクを高めてしまう恐れもあります。医師の指示に従い、正しい治療を行いましょう。
腎機能が大きく低下している場合は、低下具合に対応した治療を行い、狭心症や不整脈など循環器系に支障がある場合は心機能の経過観察もしていきます。慢性腎臓病のある場合は薬の量を減らしたり休薬するなどの細かな対応も必要です。
痛風と同じような症状が出る痛風腎、高血圧による動脈硬化との合併症である腎硬化症、腎臓に尿が溜まってしまう水腎症について説明しています。
痛風腎の原因は、一般的な痛風の原因と同じく、血中の尿酸値が高くなることで血液に溶けきれなかった尿酸が結晶化してしまうことによります。症状は慢性間質性腎炎と同じような症状が出ることがあり、尿たんぱくが出にくいのが特徴です。
食事ではプリン体を多く含む食材をできるだけ控えるようにします。お肉や魚、干物、またビールなどのアルコールにも気を付けるようにしましょう。
腎硬化症の原因は、高血圧による腎臓の動脈硬化がきっかけとなります。血管の数が多い腎臓で動脈硬化を起こしてしまうことで血流が阻害され、腎機能が低下してしまうのです。
また、高血圧が深刻になると、脳卒中や心不全の危険性が高いため、薬物療法などで強力に血圧を下げる処置が行われますが、それが腎不全の原因となってしまうケースも。
水腎症の原因は、尿路の間で何らかの障害によって尿がせき止められてしまうことによります。症状は、腎臓結石と同様に激しい痛みがある他、尿路感染してしまうと発熱することもあります。
治療では経過観察を基本とし、感染症を起こさないように抗生剤を用います。改善が見られない場合は外科手術が行われることもあります。
参考URL
[1]『食事療法のすすめ方 腎臓病の食事』東京都病院経営本部
http://www.byouin.metro.tokyo.jp/eiyou/jinzou03.html
[2]『腎臓病の種類 4.糖尿病性腎症』全国腎臓病協議会
http://www.zjk.or.jp/kidney-disease/about/class/diabetic-nephropathy/index.html
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