慢性腎臓病と診断されて食事療法を始めたばかりの人は、なれない食事制限で不安を抱えている場合が多いと思います。また、家庭で腎臓病食を提供しなければいけないご家族にも、大きな負担がのしかかります。
一方、血液検査や尿検査で腎臓の機能が低下しつつあることを示す検査結果が出ただけで、まだ腎臓病と診断されていない段階の人でも、食事療法の基礎知識を知ることで日常の食習慣を見直すきっかけとなります。
症状や病状によって違いはありますが、ここでは適正な摂取量の算出方法など、食事療法をスタートさせる前に知っておくべき基礎知識について説明していきましょう。
100人の腎臓病患者がいれば、100とおりの食事箋(食事せん)があるといわれるほど、身長や体重、食習慣や仕事の内容、運動量の違いなどによってカスタマイズが必要な腎臓病の食事療法。
これまで栄養学についての知識もなければ、腎臓の仕組みや働きも知らなかった人が、いきなり細かい計算をして毎日の献立を考えるのはとても困難なことですよね?
ましてや慢性腎臓病と診断されれば、終わりのない治療である食事療法に向き合わなければいけないのですから、最初はとにかく主治医や管理栄養士にすがるしかありません。大切なことは、腎臓の機能をいま以上悪化させないためにはどうすべきかということを理解して、自分仕様の腎臓病食を見出していくことです。
最初は勉強しなければなりませんし、食べ物を制限されるストレスも感じると思います。でも、しっかり食事療法でコントロールきるようになれば、人工透析などの末期まで病状が悪化せずにすむかもしれないのです。腎臓病の治療を成功させるカギは食事療法にあると言っても過言ではないでしょう。
慢性腎臓病の食事療法は、日本腎臓学会が算定した「CDK(慢性腎臓病)ステージ(病期)による食事療法基準」(2014年版)をベースにして治療方針を決めていきます。重症度に応じた5段階に分かれていますが、その指標となるのが「推算糸球体ろ過量」(eGFR)。この数値は腎臓が老廃物を処理できる能力を示す数値で、この値が低ければ低いほど腎機能が低下していることになります。
ステージ1~2の人はたんぱく質の過剰摂取を避けなければなりませんが、カリウム制限はされないケースもあるようです。ステージが上がれば上がるほど制限も厳しくなっていきますが、塩分と一日に摂取する総エネルギー量については、ステージによる違いはあまりないのが特徴です。
ただし適正体重をオーバーしている肥満のかたや、糖尿病など生活習慣病の合併症と診断された人、性別や日常の身体活動度など個々に条件が異なりますので、下の数値はあくまでも目安として認識していただければと思います。
CKD(慢性腎臓病)の食事療法でもっとも重要なたんぱく質制限ですが、一日の摂取基準量は身長と標準体重、そしてCKDの病状ステージによって算出されます。ステージが上がれば上がるほど、たんぱく質摂取量の制限が厳しくなります。
一日に摂取していいたんぱく質量の計算には、標準体重が用いられます。たとえば、身長160cmの人の場合、標準体重は「1.6×1.6×22≒56.3kg」ということになります。標準体重をオーバーしている人は、摂取エネルギー量との兼ね合いを見ながら、微調整することになります。
ただし、体作りに必要不可欠なたんぱく質を制限しすぎると筋肉量が減って体力も落ち、代謝機能も低下することになりますので、医師の指示に従って制限量を決めてください。
体組成の中でも水分が占める量は多く、体脂肪率が標準を上回らない場合は男性がおよそ55~65%、女性は50~60%といわれています。その水分には電解質であるナトリウムが含まれており、ナトリウムなしでは水分量の調節や血圧のコントロールができなくなってしまいます。
腎臓は余分なナトリウムを尿として排泄するために働きますが、慢性腎臓不全など腎臓の機能が低下すると、過剰なナトリウムを排泄することができなくなり、血液中のナトリウム濃度が高くなってしまいます。この状態が続くと高ナトリウム血症という電解質代謝異症を引き起こし、むくみや高血圧といった症状が出てしまいます。
食習慣上塩分摂取量がどうしても多くなりがちで、日本人の成人男性が一日に摂取する平均の塩分量は11g、女性は9.4g(2013年国民健康・栄養調査より)。腎臓病患者の場合は、かなり厳しく塩分制限をする必要があります。
慢性腎臓病のステージで大きな違いはなく、それぞれの症状にあわせ一日3gから6gの範囲に収まるよう減らさなくてはなりません。普段気づかず口にしている食べ物の多くに塩分が含まれるため、減塩素材を使い調理法に気をつけるなどして、塩分コントロールを実施していきます。
体を動かすガソリンとなる三大栄養素は「糖質・たんぱく質・脂質」です。この三大栄養素のうちたんぱく質の摂取量を慢性腎臓病の食事療法では厳しく制限していくことになりますので、どうしても活動にエネルギー量が不足してしまいます。ガス欠で燃焼できない体になると、みずからの体を燃やして活動しようとするため、たんぱく質の燃えカスである老廃物を処理する腎臓に大きな負担がかかってしまうのです。
腎臓病の食事療法でよく出る言葉に「低たんぱく・高カロリー」があります。たんぱく質を制限しつつ、活動に必要なエネルギー量を確保するため、糖質や脂質を補填できるような治療用の特殊食品を活用することが推奨されています。ゼリーなどたんぱく質の少ない間食も積極的に摂っていくよう、指導されます。
たとえば体重50kgの人の場合、一日のエネルギー量は1,250~1,750㎉の範囲で調整することになります。ただしここでいう体重とは先ほども出た標準体重を指しますので、肥満症などの場合はこの基準を下回ることもあります。そのほか、性別や年齢、身体活動レベルなど複合的な要素で判断され、個々にあわせた摂取量が設定されます。
カリウムと聞いてピンと来る人はあまりいないと思いますが、ナトリウム同様、浸透圧の調節や全身の神経への情報伝達、細胞の代謝になくてはならないミネラルの一種です。たんぱく質を多く含む食材、海草やイモ類、果物、野菜、ナッツ類などに多く含まれます。
腎臓の機能が低下してしまうと、必要となくなったカリウムを尿で体外に排泄できない状態になり、高カリウム血症になってしまいます。放っておくと不整脈や心室細動、心不全など深刻な病気を呼び込んでしまうため、十分に注意しなければなりません。
通常、CKDのステージ3aまではカリウム制限をせず、3bで一日2,000mg以下に、4~5ステージで1,500mg以下という摂取量が目安になっています。血中のカリウム値が上昇する原因はCKD以外にも考えられるため、カリウム制限についても個別に設定されることになります。たんぱく質制限をすることによってカリウム制限もできますので、病院の管理栄養士さんに食べないほうが無難な食材はどれか、教えてもらうとよいでしょう。
カリウムはほとんどの食品に含まれますし、肉類や魚介類などにも含まれますが、パセリ、よもぎ、アボカド、ほうれん草、納豆、やまといも、里芋などの野菜やイモ類、バナナやメロンなどの果実類、ドライフルールやナッツ、ポテトチップスなどのスナック菓子にも多くのカリウムが含まれますので、医師の制限指示に従ってください。
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