腎機能の低下や尿毒症などによって人工透析治療が必要であると診断された場合、症状によって「血液透析」「腹膜透析」のどちらかの方法で治療を開始することとなります。それでは、この2つの方法はどのようなものなのかを簡単にご紹介しながら、治療を開始する前までにするべき準備についても、解説していきましょう。
「血液透析」とは、血液中の老廃物や余分な水分のろ過・排泄機能を失った腎臓の代わりに、体外の人工腎臓機械(ダイアライザー)で血液のろ過・排泄を行い、体内の血液をきれいな状態にしていく、血液循環型の腎代替療法です。主に腎臓が機能しない腎不全の状態にある、病状が重度の方に適応される方法で、1回の透析時間はおよそ4~5時間、これを週3回行うのが一般的です。
「血液透析」を行う場合、1分間におよそ200mlの血液を体外へ取りだし、ダイアライザーへ送り込む必要があります。そのために、治療を開始する前にはその血液量を確保するために、手首近くの静脈を太く発達させる手術(シャント作製手術)を、前準備として行う必要があります。
手術のための入院期間は約1週間で、費用は15万円~17万円が平均的とされています。最近では、日帰りで行うクリニックもあるようです。
「腹膜透析」とは、腹部内にある腹膜の機能を利用することで、老廃物や水分の溜まった血液をろ過していく方法です。お腹の中に透析液を注入し4~8時間ほどおくと、そこに腹膜を介して体内の老廃物や余分な水分が、透析液の中に徐々に移動していきます。その透析液をまた体外へ排出することで、血液をきれいな状態にします。
そんな「腹膜透析」の大きな特徴と言えるのが、「血液透析」と異なり残存している腎機能も活かしながら、穏やかに透析が行えるという点です。そのため、腎臓の機能が完全に停止していない、中程度の病状の方に適した透析方法と言えます。1日に4~5回程度、この注入と排出を行いますが、自宅や外出先でも行うことができる治療法なので、通院は月に1~2回で済むのも「腹膜透析」の特徴と言えるでしょう。
この治療法を行うためには、透析液の注入・排出を行うためのカテーテルを腹部に挿入する「腹膜透析用カテーテル挿入術」という手術を受ける必要があります。全身麻酔で行う約2時間程度の手術で、入院期間は約1週間(外来で術前検査が終了している場合)、費用は10万円程度が平均とされています。
血液透析を行う前に必要となる「シャント手術(シャント作製手術)」とは、透析を行う際に十分な血液量を確保できる、太い血管を作っておく手術のことを指します。シャント作製には、手首近くの腕の動脈と静脈を利用します。この2つの血管をつなぎ合わせることで、血液透析に必要な太い血管を作製していくのです。
通常このシャント手術は利き腕ではないほうに行われ、医師が血管の状態を判断して良好な血管を選んで行いますが、自分の血管では難しい場合は人工血管を使ってシャントを作製するケースもあるそうです。術後に血管が透析に使えるようになるまで、2~4週間程度時間が必要となるため、透析の前準備として計画的に行われる手術です。
また、シャント手術を受けるにあたって注意したいのが、「採血」を行う部位です。血管にできるだけダメージを与えないよう、シャントを造る予定の部位での採血は避けるようにしましょう。
シャントやカテーテルといった、透析治療へ向けての前準備が整ったら、より納得できる形で人工透析治療に入れるよう、担当の医師としっかりコミュニケーションをとっていきましょう。
時間的な制約や体への負担など、わからないことや不安なことなどを医師に相談することによって、身体的だけでなく精神的にも治療に向けて準備を整えていくようにすることが、治療に向かうためにとても大切になります。
<参考文献>
日本腎臓学会発作成の診療ガイドライン
https://www.jsn.or.jp/guideline/guideline.php
透析治療ガイドライン
https://www.jsdt.or.jp/dialysis/2094.html
日本透析医学会雑誌 血液透析導入のタイミング
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/46/12/46_1134/_pdf/-char/ja
透析療法を始めるとき(アステラス製薬)
https://www.astellas.com/jp/health/healthcare/dialysis/basicinformation08.html
東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター
http://www.twmu.ac.jp/NEP/touseki-jyunbi.html