慢性腎臓病患者や透析患者の運動療法に関する疑問や、腎臓病患者にはどのような運動が向いているのかといった疑問にお答えしています。
腎臓病患者は長年「安静にすることも治療のひとつ」と言われてきましたが、ここ数年、その認識が大きく変わってきています。適度な運動をすることが腎機能の低下を防ぎ、死亡率を下げることがわかってきたのです。
腎臓は血液中の老廃物を体外に排出するための重要な器官なので、他の臓器に比べて優先的に血液を供給されています。しかし、運動を行うと血中尿たんぱくが増えるにもかかわらず、血液は体を動かすために骨格筋・肺・心臓へ送られるようになり、腎臓に供給される血液の量が50~75%に減少してしまいます。
このような体の仕組みを考慮して、これまで運動は腎機能障害を悪化させる危険があると考えられてきました。
ですが、運動を控えて長期間ただ寝ていたり安静にしていたりしと行動が制限されることによって、日常生活のQOLが低下してしまいます。さらに体力の低下や、インスリンに対する抵抗性や心血管系合併症の増加など、逆に腎疾患の進行を早めるリスクが生じることがわかってきたのです。
運動療法には次のような効果があるといわれています。
現在、運動習慣がない場合に比べて、運動習慣がある場合は死亡率が低くなることや、血液透析が必要になる時期を遅らせることができるということがわかっています。
東北大の上月正博教授によると「運動すると尿たんぱくは出るが、それは一時的なもの。長期的に見れば心肺機能が高まり、CKD(慢性腎臓病)患者の腫瘍な死亡原因となる心血管系イベントの予防につながる」とのこと。
最近の腎臓病は、「安静」ではなく「運動」が重要な治療の1つになってきたといえるでしょう。
※出典:「看護roo!リハビリが変わる、医療が変わる【3】腎臓リハ 腎臓病も運動で透析遅らせ予後改善」 https://www.kango-roo.com/sn/a/view/3408
運動療法は透析中の患者さんも安心して受けられる治療です。逆に透析中の患者さんにこそ、積極的に受けていただきたい治療ともいえます。
慢性腎臓炎になると、食事制限でたんぱく質を制限されるので体力が落ちやすい状態になります。透析を受けると、体内の老廃物と一緒に、体に必要なたんぱく質も失ってしまうので、より筋肉が減りやすいのです。
公益財団法人日本腎臓財団の調査によると、透析患者の体力は健常人に比べ、男性で82%、女性で78%まで下がっていることがわかりました。(出典:日本腎臓財団 雑誌「腎不全を生きる」Vol.38 http://www.jinzouzaidan.or.jp/jigyou/fkzn_eturanbk/vol38.pdf)
また、酸素消費量が50~60%、酸素輸送効率が48%、下肢筋力が40%というように、健康な人に比べて、心肺機能や筋力が大幅に低下していることがわかります。その理由は、透析による安静時間の増加。
透析中は、透析時間以外にもかなり長い時間の安静が必要とされます。週3回4時間透析では、1透析あたり約5時間の安静時間が必要となり、5時間×年間156回=780時間。約32日寝たきりになっているとの同じだけの筋力低下を強いられるのです。
運動しない透析患者は生命予後が悪いこともわかっています。運動した患者の年間死亡率は約9%、運動しなかった患者は約16%という報告も。運動のあるなしで、1年後の死亡率に約1.8倍もの違いがあるのです。透析患者さんにとって運動療法がどれだけ重要かおわかりいただけますでしょうか。
最近は、透析の合間に、ゴムチューブやエルゴメーターを使った運動療法を指導してくれる病院も増えてきています。ひまをもて余していた患者さんには朗報、でしょうか。
■出典:「運動療法で透析患者を元気にする」(医療法人社団つばさ) http://higasiguti.jp/page/pdf/19access.pdf
慢性腎臓病の患者さんに勧められる運動は、有酸素運動、レジスタンス運動、およびそれらを組み合わせた運動になります。有酸素運動とは、ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど、酸素を体に取り込みながら行う運動のこと。レジスタンス運動とは、いわゆる「筋トレ」。ダンベルを使った運動、スクワット、腹筋、腕立て伏せなど、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける運動のことを指します。
家族と考える慢性腎臓病サイト~腎援隊「慢性腎臓病の運動療法」(ノバルティス ファーマ株式会社)の下記ページにCKD患者向けの運動療法についてくわしく書かれています。
■慢性腎臓病の運動療法 監修:東北大学大学院 医学系研究科・医学部 内部障害学分野 准教授 伊藤 修 先生 https://jinentai.com/ckd/tips/5_5
ゴムチューブを使った運動は、室内でも簡単に行うことができるのでおすすめです。
ですから、腎機能が低下している場合はプロテインやBCAAの摂取を控え、医師の指導のもと、決められた量のたんぱく質を食事から摂るのが望ましいといえるでしょう。
慢性腎臓病の患者さんは、心臓疾患、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を合併している場合があります。
こうした疾病には、運動を制限する必要があるものも多く、場合によっては運動療法ができない場合もあります。どの程度の運動が可能か、医師に相談のうえ、ご自身の体力に合わせて無理のない範囲で運動するようにしましょう。
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