体づくりに役立つプロテインを飲み続けると、腎臓に悪いというのは本当なのでしょうか。プロテイン摂取と腎臓病の関係についてお答えします。
最近、「ダイエットや筋トレを目的としたプロテインの飲み過ぎが腎臓を壊す」といった記事を見かけるようになりましたが、じつは、プロテインの大量摂取が腎臓病に結びつくという明確な根拠はありません。
厚労省が発表している『日本人の食事摂取基準』(2015年版)のなかで、「たんぱく質の耐容上限量を策定しうる根拠となる報告は十分には見当たらない。そこで、耐容上限量は設定しない」と述べています。耐容上限量とは、摂取によって健康障害をもたらす危険がないとみなされる摂取量の上限のことです。
「耐容上限量は設定しない」とありますが、いくら飲んでもOKというわけではありません。以前は、たんぱく質の摂りすぎが体に良くない影響を与えるという報告もありました。
前述の『日本人の食事摂取基準』の2010年版には、40歳以下の健康な成人に、1日体重1kgあたり1.9~2.2gのたんぱく質を一定期間摂取させると、インスリンの感受性低下、酸・シュウ酸塩・カルシウムの尿排泄増加、糸球体ろ過量の増加などの好ましくない代謝変化が生じる、という記述があります。
さらに、65歳以上の男性に1日体重1kgあたり2g以上のたんぱく質を摂取させると、血中の尿素窒素が上昇し、高窒素血症が発症するというデータがあり、1日のたんぱく質の摂取量は、体重1kgあたり2g未満が望ましいという内容が記載されていました。
『日本人の食事摂取基準』2015版からこの部分が削除された理由は、「個人の運動量や生活習慣によって必要なたんぱく質の量は変わるから」。要するに健康体の人を対象としてたんぱく質を制限することはしない、と明言しているということなのです。
2016年3月、カナダ栄養士会とアメリカスポーツ医学会が発表したスポーツ栄養学のガイドラインによると、トレーニングを行なっているアスリートのように、日常的に運動習慣のある人は、体重1kgあたり1.2~2.0gのたんぱく質が必要なのだそうです。これは必要量ですから推奨量はさらに多く、厚生労働省のデータをはるかに上回ります。ただし欧米人と日本人とでは体格の差もありますので、鵜呑みにしては危険。
筋力アップや筋肉の増強(たとえばわかりやすいのはボディビルダーなど)が目的で食事のほかにプロテインを毎日摂取している人と運動をしていない人を比較すれば、当然摂取すべきたんぱく質の量は異なりますが、大量に食事+プロテインでたんぱく質を摂れば、それだけ肝臓や腎臓への負担も多くなります。
健康であれば問題ない量でも、肝臓や腎臓への負担が年々蓄積されれば、体に悪影響を及ぼす可能性がないとは言えません。長年トレーニングをしている人、プロテインを摂る習慣がある人は、健康診断などの定期的な検査で肝臓や腎臓の数値を常に注意深くチェックしていく必要があります。
腎機能が低下している場合、プロテインやBCAAの摂取はおすすめできません。2007年に行なわれたWHOの調査では、「たんぱく質の過剰な摂取は慢性腎臓病や糖尿病性腎症を悪化させる」ことが報告されています。
プロテインのような吸収しやすいたんぱく質や、運動による筋たんぱく質の分解を防いでくれるBCAAのような必須アミノ酸は、わたしたちの体を維持していくうえで必要不可欠なものですが、機能が低下した腎臓にとっては逆に負担を増加させ、病状を悪化させてしまう存在でもあります。
食事で糖質と脂質、プロテインでたんぱく質を摂ればよいのではないか、と思うかもしれませんが、じつはあらゆる食品にたんぱく質が含まれています。食事だけでもすでに相当量のたんぱく質を摂取しているのですが、あまりそのことに気付きません。さらにプロテインやBCAAを追加してしまうと、あっという間に1日の摂取目安量をオーバーすることにつながります。
ですから、腎機能が低下している場合はプロテインやBCAAの摂取を控え、医師の指導のもと、決められた量のたんぱく質を食事から摂るのが望ましいといえるでしょう。
クレアチニンは、筋肉に含まれるクレアチンというアミノ酸が、体内で代謝されることによってできる老廃物です。クレアチンは筋肉を動かすために必要な成分で、筋が運動エネルギーを生み出す際の代謝物として、血液中にクレアチニンを放出します。
筋肉を動かせば動かすほど、血液中のクレアチニンの量は増えるので、健康な人でも、負荷の高い運動を行なったあとは「血清クレアチニン値」が上昇するのが普通です。血液中のクレアチニンは腎臓でろ過され、尿中に排出されますが、アスリートやボディビルダーのように、日常的に筋肉を酷使するトレーニングを行っていると、腎臓にも慢性的な負荷がかかり、腎機能が低下してしまう恐れがあります。
プロテインやBCAAを常用している場合は、腎臓への負担が倍増してしまいます。高負荷トレーニングを続ける場合は、「血清クレアチニン値」の変化に注意するよう心がけましょう。健康な人であればクレアチニンの数値上昇は一時的なものなので問題ありませんが、CKD(慢性腎臓病)などの腎疾患を抱えている人は医師のアドバイスにしたがって、運動の強度をコントロールすれば問題ありません。
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